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コロナ危機「日本人の住まい選び」が激変する…!

 新型コロナウイルス感染症の拡大が深刻化し、さまざまな方面に影響が広がりつつある。住まい
選びも例外ではない。特に、テレワークの浸透で、住まいに対する考え方が大きく変化する可能性
があるのだ。

コロナ危機「日本人の住まい選び」が激変する...!

テレワークがどんどん進んでいる

 テレワークは働き方改革の一環として推進されてきたが、なかなか進展してこなかった。

 それが、新型コロナウイルス感染拡大が深刻化し、出勤する人をできるだけ減らして、さらなる
拡大を抑制するための決め手のひとつとして、時差通勤、在宅勤務が促進され、注目度が高くなっ
ている。

 2020年3月に実施された、東京商工会議所の『新型コロナウイルス感染症への対応について』と
題した調査では、図表1にあるようにテレワークを「実施している」とする企業は26.0%にとどま
っている。「実施検討中」を含めても半数に届かかないのが現実だ。

 しかし、従業員規模別にみると、300人以上の会社では「実施している」が57.4%に達し、業種
別では、貿易業で60.0%、情報通信業では53.8%に達している。

図表1 新型コロナウイルス感染症対策のテレワーク実施率

 これは、3月段階の調査だが、その後、さらに在宅勤務が進んでいることは間違いなく、その流れ
が当面続くことになるだろう。

 4月14~17日に経団連が全会員企業1470社を対象に実施した調査では、テレワーク・在宅勤務を
実施している企業の割合は97.8%になっていた。大企業ではほとんどで取り組みが始まっていると
言っていいだろう。

テレワークキッカケで引越しを考える人も

 このテレワークの増加は、住まい選びに大きな変革をもたらす可能性がある。

 これまでは、毎日満員電車に揺られて出勤しなければならないため、多少狭くても、多少高くても
より会社に近い場所にマンションなどを求める必要があった。それがなくなるのだから、そのインパ
クトは小さくない。

 実際、テレワークがキッカケで引越しを考える人が増えているという調査結果がある。

 リクルート住まいカンパニーが、新型コロナウイルス感染症が拡大する以前の2019年11月に実施し
た調査をみると、図表2にあるように、テレワークがキッカケで引っ越したという人が10%に達し、
前向きに検討し始めている人が27%いた。

図表2 テレワークきっかけでの引越しの実施有無(単位:%)

 新型コロナウイルス感染症の影響でテレワークが急速に進んでいる現在では、この数字がもっと大
きくなっているのは間違いないだろう。

 その引越しを考える際、テレワーク増加によってどんな変化が生じるのか――まず挙げられるのが
自宅などで仕事をして、毎日会社に出勤する必要がなくなれば、マイホームの取得場所の制約が小さ
くなるのではないかという点だ。

都心にこだわる必要がなくなる

 最近は、パワーカップルのようにガンガン働いて、都心や湾岸の高額な超高層マンションを手に入
れるのがステータスで、多くの人が憧れる、都心の住まいを手に入れられる人が勝ち組だった。それ
が都心や湾岸の超高層マンション人気を支えてきた面もある。

 しかし、基本的に仕事は自宅でこなし、必要なときだけ出社すればいい、それも通勤時間帯以外で
もOKとなれば、何も無理して都心近くの高いマンションにこだわる必要はなくなる。

 郊外なら、都心の半分以下の値段で、都心よりはるかに広い、ゆったりした住まいを手に入れるこ
とができるのだから、そのほうがいいのではないとか考える人が増えるのは当然の流れだろう。

 実際、場所によって、どれくらい違ってくるのか、東京カンテイのデータから、東京駅でつながっ
ているJR横須賀線と総武本線の主要駅の、中古マンションの平均坪単価と平均専有面積の変化をみて
みよう。

 横須賀線では、都心の品川駅は坪単価359万円に対して、戸塚駅は134万円で、久里浜駅は60万円。
総武本線も都心近くの錦糸町では坪単価262万円が、船橋駅では121万円に、四街道駅では49万円まで
下がる。図表3・4でも分かるように、都心から離れるほど安くて専有面積は拡大する。

 専有面積70㎡換算にすれば、品川駅は7615万円だから、1000万円の自己資金があったとしても、
残りをローンで調達すると、金利1.0%、35年元利均等・ボーナス返済なしの毎月返済額は18万6731円
になる。

 それに対して、久里浜駅の70㎡換算価格は1272万円だから、1000万円の自己資金があれば、住宅ロ
ーンは限りなくゼロですむ。仮に、全額ローンを組んだとしても月々3万5906円なので、広い住まいを
手に入れることができる上、家計負担も軽くなって、ゆとりある生活を楽しむことができるだろう。

通勤34分の差が1億円以上に差に…

 新築マンションにも同じことが当てはまる。あくまでも一例に過ぎないが、小田急沿線で物件を探す
と都心に近い下北沢駅の『グランドメゾン代沢三丁目』(大和ハウス工業)は、専有面積83.42㎡の3LDK+
WICが1億3900万円だ。世帯年収が1000万円以上のパワーカップルでも簡単ではない。

 しかし、同じ小田急沿線でも、橋本駅の『リーフィアレジデンス橋本』(小田急不動産)は、専有面積
88.49㎡の4LDK+FC+Nが3798万円で手に入る。これなら、専業主婦世帯でも何とかなりそうだし、パ
ワーカップルなら余裕だろう。

 新宿駅からの時間距離は下北沢駅が7分で、橋本駅は41分だから、極論すれば、通勤時間34分の差が
1億円の価格差になっているといってもいいわけだが、テレワークであれば通勤時間を気にする必要は
ない。何も1億円も高いマンションに目を向ける必要はなくなるのだ。

 もちろん、立地だけではなく、設備・仕様、管理などの違いはあるだろうが、広さという面だけでみ
れば、橋本駅であっても、全然問題はないだろう。テレワークにおいては、この広さこそが重要だ。

 たとえば、最近は、突然テレワークになったために、住まいのなかで仕事場所の確保に苦労したり
子どもやペットに仕事の邪魔をされたりして、難儀している映像がテレビのニュース番組などに流れ
たりしているが、映像を見る限り、その多くは、広さが十分ではないマンション住まいの人のように
見受けられる。一定の広さがあって、テレワークする場所を住まいのなかに確保できる物件なら、こ
んな事態にはなりにくいはずだ。

 それだけに、専有面積の狭い都心近くのマンションでなく、郊外の広い住まいを求めたほうがいい
のではないかということになってもおかしくない。今回の新型コロナウイルス感染症の拡大は、そう
したことを私たちに気づかせてくれるキッカケになるのかもしれない。

新築マンション値下がりのタイムラグ

 そうなると、都心のマンションへのニーズが弱まり、価格が下がるのではないかという可能性が出
てきそうだが、新型コロナウイルス感染拡大の影響が市場で表面化してくるまでには、多少の時間が
かかりそうだ。

 特に、新築マンションに関しては、上位企業の寡占化が進んでおり、不動産経済研究所の調査によ
ると、メジャーセブンと呼ばれる大手7社のシェアは5割近くに達している。

 三井不動産レジデンシャル、三菱地所レジデンス、住友不動産などの大手企業であり、マンション
以外にも都市開発、オフィス賃貸など多角化が進んでいて、売上高に占めるマンションの比重はさほ
ど高くない。

 したがって、マンションの売行きが多少鈍化しても、あわてて値引きなどに走る必要はない。完成
在庫が出ても、1年、2年かけてジックリ売っていけばいいという経営方針をとりつつある。

 このため、新型コロナウイルス感染症拡大に影響が出てきても、新築マンション価格がすぐに下が
るとは考えにくく、多少のタイムラグが生じるのではないだろうか。

 ただ、その一方で、比較的早く影響が出てきそうなのが、中古マンション市場だ。
 2019年後半から、2020年前半にかけては、前年同月比で10%近い上昇率を示す月もあるほど上昇
してきたが、2020年3月は一転して0.9%のマイナスとなっている。

 市場関係者によると、2月からあたりから新型コロナウイルス感染症拡大による先行き不安から
早めに売っておこうとするマンション所有者が増えているといわれている。特に、自己居住用では
ない、不動産投資用の物件でその傾向が強まっているといわれる。感染拡大がさらに深刻化してく
れば、いよいよ本格的な価格低下が始まる可能性もある。

 こうした動きをみると、まずは都心の中古マンションから下がり始め、一定の時間差で新築マン
ションにもその影響が及ぶことになるのかもしれない。

 今回みてきたように、テレワークで時間距離はあまり意味も持たなくなってくるため、多少都心
から遠くてもゆったりした広さのマンションを見直そうとする動きが出てくるとみられる。しかし
一方では、都心のマンション価格が下がれば、そちらの動きも気になるところだろう。

 テレワークを前提に、都心から離れたゆったりした広さのマンションにするか、値下がりが期待
できる都心やその周辺の物件にこだわるか、悩ましい判断を求められるようになりそうだ。
                               「現代ビジネス」