コロナショックで「ローン延滞→自己破産」が急増する可能性

 新型コロナウイルス感染症の影響が深刻化、従業員を解雇したり、勤務時間を減らす動きが広がり、職を失ったり、収入が減少する人が増加している。それによって、住宅ローンの返済が厳しくなり、条件変更などによって返済猶予を希望する相談が増えている。

 フラット35を推進している住宅金融支援機構によると、そうした相談が2月には20件ほどに過ぎなかったのが、3月には200件に増え、4月には1200件を超えるほどに増加しているという。わずか2ヵ月ほどで相談件数が60倍に急増しているのだ。

住宅ローンの「自己責任」

 新型コロナウイルス感染症の影響だけではなく、通常の状態でも勤務先の経営の悪化などで収入が減ったり、病気やケガなどによって一定期間収入がダウンしたり、途絶えたりすることは十分にあり得る話。住宅ローンを組む以上、さまざまなリスクをあらかじめ想定して、対策をとっておくべきだろう。

 前回の記事(急激に深刻化…コロナショック「ローン破綻危機」のウラにある事情)では住宅ローン、特にフラット35に関する貸し手側の責任について触れた。だが、貸し手側に責任があると同時に、借り手側にも責任があるのではないか――それが、住宅ローン利用に当たっての「自己責任」ということだ。

 いうまでもなく、住宅ローンを利用する人にとっては、マイホームは恐らく人生最大の買物であり、住宅ローンは人生最大の借金。人生最大であるだけではなく、人生で一度か二度の、数少ないイベントだろう。

ローン破綻の「恐怖」

 ところが、そのマイホーム取得にあたっては、何よりマイホーム選びが優先され、住宅ローンについては二の次にされているケースが多いのではないだろうか。マイホーム選びに疲れ切って、住宅ローンにまで気が回る人は少ないのが現実だ。

 しかし、住宅ローンで失敗すると、利用者本人だけではなく、家族全員を不幸にしかねない。住まい選びの失敗は、多少のことならガマンできるし、その後リフォームや買換えなどでカバーすることが可能だろう。

 しかし、住宅ローンはそうはいかない。万一にもローン破綻に陥ると、住まいを失った上で借金だけが残り、家族全員が不幸のどん底に落ちかねないのだ。

 そんなリスクを内在しているのだから、マイホームの物件選びに気を取られるだけではなく、住宅ローンに関してもシッカリと情報を収集し、知識を蓄え、十分な準備をしておく必要がある。

 物件選びと同等とまではいわないが、その何分の一かでも力を注いでいただきたい。そうすれば、今回の新型コロナウイルス感染症拡大の深刻化のような、万一の事態に遭遇してもあたふたすることはなく、かなりの確率でローン破綻を回避できるはずだ。

住まいにお金をかけすぎて…

 そこで、住宅ローンの借り手として何が最も重要かといえば、今回のような事態に遭遇したときにもすぐに困窮しないように、住宅ローンを組むときには、手元に十分な生活費を残しておくということだ。

 マイホーム計画に当たっては、少しでも希望に合った住まいを、できるだけ便利な場所に取得したいと、どうしてもギリギリの資金計画になりがち。その結果、頭金や諸費用を支払うのがやっとで、手元にほとんど預貯金が残らないまま、新居での生活をスタートさせる人がいる。

 それでは、今回のように、新型コロナウイルス感染症拡大のような事態に遭遇したときたちどころに返済に窮してしまう。感染症拡大の本格化からわずか2ヵ月ほどで、条件変更などの相談が60倍に膨れ上がったというのは、いかにそうした人が多いかを如実に物語っている。

最低でも「半年分の生活費」を手元に残す

 そうならないよう、収入が途絶えたとしても、最低でも半年程度は生活していけるだけの預貯金を残しておく必要がある。最低限の生活費が月30万円とすれば180万円、50万円なら300万円程度はいつでも引き出せる状態で確保しておきたい。

 今回のような事態に遭遇しても、半年の猶予期間があれば、何らかの形で収入を確保できる道が開けるかもしれないし、これまで通りの収入が確保できなくても、減少した収入に応じた生活の構築が可能になるのではないだろうか。何より、万一に備える生活費の確保が最優先だ。

 くれぐれも、「困ったときにはカードローンなどを利用すればいい」などと安易に考えないでいただきたい。カードローンなどは住宅ローンに比べると金利が極めて高く、収入が減ったなかで、その返済は容易ではない。カードローンで目先の生活をしのげても、半年後、1年後にいっそう深刻な事態に陥るのが関の山だ。

コロナショックで「ローン延滞→自己破産」が急増する可能性

(資料:国土交通省『令和元年度住宅市場動向調査』)

30%以上の自己資金を用意している人が多い

 その上で、住宅ローンを組むに当たっては、できるだけ自己資金を増やして、借入額を少なくし、ローンの返済負担を軽減するようにしたい。そこで、皆さんが実際にどのような資金繰りでマイホームを取得しているのかをみてみると――。

 国土交通省の調査によると、2019年度に住宅を取得した人の自己資金と、借入額の割合は図表1のようになっている。

 価格上昇が目立つ分譲マンションを買った人は、1000万円以上の自己資金を用意して購入自己資金比率を31.5%まで高めている。

 中古住宅だと自己資金は1000万円を切るが、それでも購入価格が新築に比べて安くなるため、自己資金比率は30%台の半ばに達している。

 注文住宅や分譲一戸建て、いわゆる建売住宅を買った人でも、20%前後の自己資金を用意している。

返済負担率は20%以下で買っている人が多い 

その結果、年収に占める年間返済額の割合を示す返済負担率はおおむね20%を切っている。


 分譲マンションを買った人の年間返済額は131.6万円、返済負担率は18.2%で、中古一戸建てや中古マンションを買った人だと15%台、13%台まで下がる。

 銀行ローンの審査においては、年収400万円以上の人だと、返済負担率35%までOKだがそこまでギリギリで資金計画を組む人は少ない。十分にゆとりをもってマイホームを取得しているわけだ。

 先に触れたように、手元に一定の生活資金を残しながら、自己資金をたっぷりと準備するというのは簡単ではないが、マイホーム取得後の生活の安全・安心を考えれば、それぐらいの慎重な対策が肝要。それが住宅ローン借り手としての「自己責任」でもある。
コロナショックで「ローン延滞→自己破産」が急増する可能性

(資料:最高裁判所『司法統計』)

自己破産が急増する可能性もある

 それぐらいの慎重な計画を立てないと、万一の事態には対応できない。

 このままでは、住宅ローン延滞から破綻につながり、ひいては自己破産が急増することになりかねない。自己破産件数はこのところ年間6万件台から7万件台で落ち着いているが、これが図表3にあるように、2000年代初頭のように、10万件台、20万件台にいっきに膨らみかねない。

 そうならないためにも、住宅ローンを利用するときには、それなりの覚悟をもって臨む必要がある。それが「自己責任」ということだろう。新型コロナウイルス感染症拡大の影響による条件変更などの相談の急増は、改めてその「自己責任」の重要性を気づかせてくれたといえよう。

住宅ローンの「自己責任」の重要性

 これから新型コロナウイルス感染症の影響が住宅・不動産分野にも及び、中古マンションなどを中心に、物件価格が下落に向かう可能性がある。住宅ローン金利は低い水準が続いているのでここが買い時と購入に動こうとする人が出てくるかもしれない。

 しかし、いずれは新型コロナウイルス感染症を押さえ込むことができたとしても、コロナ後の社会はこれまでの社会と違って、さまざまな面で不確定要素が多くなる可能性が高い。
それだけに、住宅ローンの利用に当たっては、従来以上に「自己責任」意識が重要になってくるはずだ。
                               「現代ビジネス」