日銀の金融緩和政策修正で住宅ローン金利は上がる?

日銀は20日に行った金融政策決定会合で金融緩和政策を修正し、長期金利(10年国債利回り)の
変動許容幅を±0.25%から±0.5%まで拡大することを決定しました。

インターネット上などでは住宅ローン金利への影響を懸念する声も上がっていますが、実際は
どのような見通しを持っていればいいのでしょうか。
住宅ローン比較サービス「モゲチェック」のチーフアナリスト 堀江勇介氏に聞きました。

■日銀は、国内の物価上昇にブレーキをかける「事実上の利上げ」を実施

――今回の長期金利の変動許容幅拡大には、どのような背景があり、どのような意味を持つので
しょうか?

コロナ禍からの急激な経済正常化や原油などのエネルギー価格の上昇によって、2022年は世界的
に急速なインフレに見舞われました。
そのため、欧米諸国の中央銀行は金融環境を引き締めるため、利上げを相次いで実施しています。
一方で日本の金利は一定のため、海外との金利差が拡大して円安が進行。その結果、国内では物
価上昇に拍車がかかっている状況です。

これまで日銀は、長期金利の許容幅の拡大について「日本経済にとって好ましくない」と否定的
な見解を示していましたし、黒田総裁も会見で「利上げではない」「金利市場の歪みを修正する
のが目的だ」と強調していましたが、もしかすると裏では政策変更で物価上昇にブレーキをかけ
たい狙いがあるのかもしれません。

■変動金利は変わらず、固定金利は若干上がるが限定的

――今回の政策変更は、住宅ローン金利にどのような影響を及ぼしますか?

今回の政策決定では、マイナス金利政策が維持されました。変動金利の指標となる短期金利に影
響はないですし、変動金利は今や金融機関の住宅ローン競争の主戦場となってますので、変動金
利は変わらず、現在のような低金利が続くでしょう。

一方、長期金利を指標としている固定金利は多少上昇するかもしれません。しかし、その影響は
限定的であると考えています。 固定金利は一般的に、10~19年程度の期間の金利を参照して、
各銀行が決定しています。これまでの日銀の政策によって、長期金利(10年国債利回り)は0.25%
付近にとどまっていましたが、15年など超長期の金利は1%近い水準となっています。そこで、
7年金利と15年金利の間をとって線形補間すると0.5%程度となるのですが、これは「長期金利は
日銀が抑えていたため実際には上がっていなかったものの、実態としてはすでに0.5%付近の状態
になっている」と読み解くことができます。

これらの状況を踏まえると、既に各銀行の固定金利は「長期金利が0.5%」になった状態を織り込
んで決定されている可能性があるため、今後の上がり幅は限定的と予想します。上がったとして
も長期金利の上昇幅の0.25%よりは小さく、せいぜい0.1%~0.2%程度ではないでしょうか。

■住宅購入を検討している人は支払い金利アップに注意

――固定金利が上がると、これから住宅を購入しようと考えている人にはどのような影響がある
と考えられますか?

これから固定金利を借りるユーザーは支払額が増えます。具体的には、元本3,500万円で金利が0.1
%増えた場合、35年間で約70万円総返済額が増えます。金利負担の増加が考えられます。
また、当面先の話だとは思いますが、もし仮に変動金利が上昇した場合、不動産価格が抑制される
と考えています。 銀行には審査金利という、ユーザーの返済余力を算出するための金利が、貸し出
し金利とは別にあります。
現状の審査金利は3.0%~3.5%程度ですが、今後変動金利が上がることがあれば、審査金利も上がる
と想定され、借入可能額が減少するでしょう。

返済比率の上限を35%、毎月の返済額を15万円と仮定しましょう。この条件で借りられる住宅ローン
の元本は、審査金利が3%のときは3,900万円ですが、審査金利が4%に上がると3,390万円まで目減り
してしまいます。
さらに、審査金利の上昇によって住宅ローンの貸し出しが伸びなくなると、結果的に不動産価格の
抑制につながる可能性もあります。 実際に、アメリカでは大幅な利上げの影響で住宅ローンが借り
づらくなった結果、不動産価格の上値が抑えられています。こうしたことが今後日本でも起こるか
もしれません。

――これから住宅ローンを借りようと考えている人、借り換えを考えている人へ、住宅ローンを選
ぶときに大事にしたいポイントを教えてください。

大切なのは、住宅ローンは比較してもっと低金利のローンを選べるということ、また低金利のローン
を選んで浮いたお金は浪費せず、貯蓄や資産運用で資金の確保をすべきだということです。
住宅ローンはネット銀行やメガバンクなど、多くの銀行が全国対応しています。どこに住んでいて
も多くの選択肢があるので、条件の良いローンを選ぶことが可能です。
ぜひ住宅ローンを比較して、低金利のローンを選んでみてください。 そして低金利ローンを使うこ
とで浮いたお金は浪費せず、貯蓄や資産運用で蓄財することも大切です。私達の見解とは異なりま
すが、万が一将来住宅ローン金利が大きく上昇した場合には、そこで蓄えた資金を繰り上げ返済の
原資にしたり、生活資金に回す資金を確保できたりと大きなメリットがあります。
                       「堀江勇介 MN ワーク&ライフ編集部」