電通が、エイベックスが……「さらば!本社ビル」有名企業の悲哀史

「原宿の本社ビルは、義明さんの居心地が良いように作られたお城でした。だから、彼が失
脚すると同時に売却されたのも当然です。義明さんは当時、西武グループ社員からすると神
様のような存在で、その言葉は絶対という社風でした。義明さんのすることに疑問を持つよ
うな人は、そもそも社員になっていなかった。記憶が定かではないのですが、たしか社屋に
は義明さんの父・康次郎さんを祀る仏間や茶室などもあったはずです。社屋というより、義
明さんの私邸のようなものでした。ヘリコプター通勤? それは嘘じゃないですかね(笑)」
 一流の凋落を象徴する例として、関氏はもうひとつ、山一證券を挙げる。 「旧4大証券のな
かでは、野村證券の本社ビルなどは古かったですが、山一の本社は抜きんでた威容を誇ってい
ました。自社の所有ではありませんでしたが、上層階は社員の住居にもなっていて、“エレベー
ター通勤”する社員たちは喜んでいましたね」  東京・茅場町にあった山一の新本社ビルは、
同社が経営破綻するわずか1年前、1996年10月に竣工した。1年後には報道各社が押し寄せて
テレビに連日映された場所だ(ちなみに、記憶に残る社長の号泣会見が行われたのはこのビル
ではなく、東京証券取引所だった)。破綻後には、大家だった秀和から追い出されるように
退去し、社員たちが早朝に山一の看板をこっそり撤去した逸話も残る。ちなみに、このビルに
面した道を大手町方向に歩くと、山一とほぼ同時に経営破綻した北海道拓殖銀行の旧本店もあ
り、金融業界では当時、「破綻ストリート」などという、ありがたくない名で呼ばれたことも
ある。

 コロナ禍のビル売却では、上記の電通、エイベックスに先行したのが、アパレル大手・三陽
商会
だ。2020年7月、銀座の旗艦店が入る自社ビルの売却を発表し、9月に退去した。同社は20
15年にイギリスの高級ブランド「バーバリー」とのライセンス契約が終了し、それ以来、昨期
まで4期連続の最終赤字に苦しんでいる。同社の大江伸治・社長はメディアの取材に、「新型
コロナウイルスの感染拡大による減収を受け、キャッシュを確保するために決断した」と答え
ており、資金繰りのための苦しい売却であることを認めている。  東京商工リサーチの常務情
報本部長・友田信男氏は、「バーバリーとの契約終了の当時、社内ではそこまで深刻な影響が
出るとは思われていなかったようです。しかし、減収減益が続き、人員整理も進めている。
資産の切り売りをしなければならない苦しい状況です」と分析している。
                            「NEWSポストセブン」