一般的には「日当たりの良好な南向き」が良いといわれるマンション。しかし、タワーマンション
限っては、このセオリーが当てはまるとは限りません。失敗しないタワーマンションの部屋選びの
ポイントを、住み心地と資産価値という観点から解説します。
タワーマンションの価値は、一にも二にも「眺望」
タワーマンションの最大の価値は、言うまでもなくその眺望です。これは他の低層マンションでは
代替の利かないメリットです。タワーマンションに住む人の多くはその圧倒的な眺望に憧れて購入
します。 しかし、ここで注意すべき点は、そのマンションの立地と部屋向きです。多くのタワーマ
ンションは東西南北すべての向きに部屋があり、部屋の向きによって眺望は大きく異なります。
例えば、タワーマンションの多い東京において、眺望として断トツの人気があるのは、東京タワー
を中心とした高層ビル群の夜景を楽しめる港区や新宿区を見渡せる部屋向きです。しかし、タワー
マンションが集積している勝どきや豊洲、晴海といった湾岸エリアからは、これらの夜景は北西側
に見えることになります。 逆に、湾岸エリアで南向きの部屋の場合、その立地によっては窓から見
渡す限り海で、昼間は開放感がありますが、夜は真っ暗でほとんど何も見えないということもあり
ます。 一方で、港区や新宿区を南側に見渡せる池袋周辺のタワーマンションであれば、文句なく南
向きが最も人気が高くなります。
眺望が悪い南向きより、眺望の良い北向きのほうが…
一般的に南向きが良いとされるのは、日当たりのよさからです。しかし、タワーマンションの場合
は日当たりよりも眺望が重視される傾向があります。
なぜなら、繰り返しになりますがタワーマンションの眺望は他に代替が効かないからです。
日当たりの良さだけであれば、タワーマンションでなく低層マンションでも南向きで日当たりの良
いマンションはいくらでもあるのです。 そのため、タワーマンションに限っては眺望がいまひとつ
な南向きよりも、眺望の良い西向きや北向きが人気の出る傾向があります。
北向きでも、開口部が広いため「暗くなりにくい」
「北向き=日当たりが悪くて暗い」という印象を持っている人も多いですが、ほとんどのタワーマン
ションは開口部が広く窓が大きな作りになっており、北向きで直射日光が入らなくても意外と部屋
が暗くなりません。 実際に住み比べてみれば分かりますが、南向きでも開口部が狭くて細長なマン
ションよりも、北向きでも開口部が広くて窓の大きなタワーマンションの方が、部屋全体が明るく
なります。そのため、直射日光にこだわらず、部屋の明るさという観点で言えば、タワーマンショ
ンに限ってはそれほど大きな問題はありません。
ただし、やはり北向きの部屋は南向きと比べると、冬は部屋の温度は上がりづらくなります。その
分夏は南向きよりも涼しいので一長一短ですが、これは好みの問題でしょう。
眺望が悪くなれば、資産価値は激減する
タワーマンションの部屋選びの注意点としては、その眺望が将来に渡って保証されるかどうかとい
う点です。繰り返しになりますが、タワーマンションの最大の価値はその眺望です。そのため、そ
の眺望が悪くなると一気に人気がなくなり、不動産としての価値は激減します。 Aさんは、家を探
す際に日当たりのよさを最重視して、東京の湾岸エリアのタワーマンションの「高層階南向き」の
部屋を購入しました。
しかし、購入してから10年後、向かいに同規模のタワーマンションが建設されてしまい、お昼の時
間帯に部屋に日光が入らなくなってしまいました。 住み替えを検討しましたが、日当たりと眺望の
悪化が原因で人気が激減し、想定していたよりも大幅に低い金額でしか売れなくなってしまいました。
まだ多額のローンも残っていたことから、Aさんは売却を諦め、やむを得ずそのまま住み続けること
を選択しました。
そのようなことにならないために、タワーマンションを選ぶ際は、資産価値という点でも、住み心地
という観点でも、正面に今後大きな建物が建つ可能性がないかどうかは重要なチェックポイントにな
ります。 向かいに古いビルや空き地がある場合などは注意が必要です。とくに、敷地面積が大きい割
に階数が低くて古い建物が建っている場合、その土地の容積率を余らせていることが多いため、将来
的に今よりも大きなタワーマンションやビルに建て替えられる危険性があります。
「タワーマンションの低層階」という選択肢
次に、部屋の向きから話を変えて、タワーマンション階層に注目して考えてみます。
タワーマンションの最大の価値は眺望ですが、そのメリットが望めないタワーマンションの低層階と
いう選択はどうなのでしょうか。
一般的には眺望も良くなく、資産価値も低いと言われるタワーマンションの低層階ですが、居住する
うえで何を重視するかによっては賢い選択になるケースもあります。そのポイントは価格、立地、設
備です。 タワーマンションは、駅近や駅直結などアクセスの良いものが多く、またジムやスパなど共
用施設も充実しているものが増えてきています。また、低層階は高層階と比べて価格が格段に低く抑
えられています。
そのため、タワーマンションの低層階は、高層階と同じ立地や設備が、高層階と比べて低い価格で手
に入るというメリットがあります。そのため、眺望はそこまで重視しないが立地や設備にはこだわり
たいという人にとっては賢い選択肢となり得るのです。 低層階は価値が低く資産としての魅力がない
と言われることもありますが、その分購入時の値段が十分に安いのであれば、将来売るときの価格の
減少率も低く抑えられます。そのため、タワーマンションの低層階を検討する場合は、その立地の人
気度、共用設備のグレード、そして値段の割安度を総合的に判断することが重要となります。
ただし、立地や設備などのメリットは、眺望と違って他の低層マンションでも代替が効くことを忘れ
てはなりません。そのため、価格も含めて同エリアの低層マンションとも比較してそのタワーマンシ
ョンを選択する妥当性があるかを冷静に見極める必要があります。
タワーマンションの資産性も、結局は立地が左右する
最後に、タワーマンションの資産性についてです。 タワーマンションに限らず、不動産の価格は他の
消費財と同様に需要と供給のバランスで決まります。したがって、需要が多く供は少ない不動産の資
産性は維持されやすくなります。
ひと昔前まではタワーマンション自体が珍しかったため、希少性が高く(供給が少なく)、資産とし
ての価値がありました。しかし、最近では都市部でタワーマンションが乱立しているため、希少性と
いう点では決して珍しいものではなくなってしまっています。 その結果、今後も資産価値を維持する
であろうタワーマンションと、近い将来に相場が大きく崩れる恐れのあるタワーマンションで勝ち負
けがはっきりしてくると思われます。 具体的には、同エリアで同時期に大量にタワーマンションが建
設されたエリアや、これからまだ乱立が予定されているエリアでは、将来市場に中古として出回る供
給量が増える見込みであることから、資産価値が下がっていくことが予想されます。
また、タワーマンション自体の希少性が下がった近年において、タワーマンションの中でも駅から遠
いものや通勤アクセスの悪いもの、買い物や教育施設など日常の生活インフラが追いついていないエ
リアは敬遠される傾向が強まります。 逆に、好立地で同地区にタワーマンションが少ないエリアや、
行政の都市計画において今後タワーマンションが増える見込みのないエリアは、需要も希少性も下が
らないことから資産価値をある程度維持し続ける可能性が高いと言えます。 タワーマンションに限ら
ず、これらのことを総合的に考慮しながら、ご自身の生活において重視するポイントと併せて理想の
住まい探しをしていただければと思います。
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